登山での遭難や海難事故のニュースなどでよく「低体温症」という言葉を耳にします。
読んで字のごとく、体温が異常に低下することで命を落としてしまう恐ろしい症状です。
そもそも低体温になるとは何度以下のことを言うのでしょうか。
「日常生活ではあまり関係がない」と思いきや、実はそうではなく
あなたも私も気を付けないと、うっかり低体温症になる危険性も…!
- 低体温症はなぜ起こるのか
- なりやすい人は
など原因やメカニズムについてお伝えしたいと思います。
人間の体調調整のメカニズム
人間は外気温に関係なく、ほぼ一定の体温を維持する機能を持っています。
一般的と言われている人間の平熱は
脳の視床下部という部分でコントロールされています。
視床下部は脳の「間脳」と言われる一部分で、その働きは、体温調節機能だけでなく
- 自律神経を調整
- 心臓血管機能
- 代謝機能
などさまざまな体の機能調整を担う、生命維持の中核とされています。
ですから、
・寒い時に体を温めるためにブルブル体が震える
・暑い時に熱を逃がすためにダラダラ汗をかく
といった現象が起きるのは、視床下部からの指令によって、
筋肉や血管、汗腺などが反応して、体にもともと備わった体温調節機能が働いているからです。
体の中心は常に37℃前後に保たれている
普通の人は、涼しい環境であっても、熱い環境であっても、
体の中心は常に37℃前後に保つように調整されています。
ところが「寒い環境」では体の中心部でさえも35℃以下まで低下してしまうことがあり、これを「低体温症」の状態といいます。
37℃は微熱?
人間の細胞が代謝を活発に行いながら、かつ細胞が破壊されないちょうどいい温度は37℃と考えられています。
体温が37℃というと「微熱?」と思うかもしれませんが、
じっさい、私たちが体温計を使って、わきの下や耳で行う通常の体温測定では、
外気の影響を受けるため、深部の温度(37℃)よりも1℃前後低くなっていることから、
目に見えて計測できる「平熱」は36℃前後になっています。
もちろん平熱といっても、個人差もあり年齢によっても変わってきます。
熱産生(体が生命維持のために作るエネルギー)が活発な乳幼児は高く、
熱産生が弱まった高齢者は低くなる傾向があります。
低体温症とは
「低体温症」とは、救急医学会などの医療現場における正式な定義では
「偶発性低体温症」
と言って、体の中心部の温度が35℃以下になる状態を言います。
低下の度合いによって、
- 軽度低体温(35~32℃)
- 中等度低体温(32~28℃)
- 高度低体温(28℃以下)
に分類され、体温の低下が著しくなるほど症状は重症となり、
28℃以下の高度低体温状態までいくと
筋肉の硬直・不整脈・呼吸の停止
が出現し、生命に危険が及びます。
低体温症の原因
低体温症というと登山遭難が原因と思いがちですが、実はそうではありません。
2011年3月11日に起こった東日本大震災の大規模な津波によって、
3月のまだ寒さが残る時期、体が濡れたまま寒い状況に長時間いてしまうことで、
たくさんの尊い人命が低体温症で失われたことはよく知られています。
寒い環境に長時間居る
↓
体熱が奪われた状態が続く
↓
体温調節機能が低下、体内でつくられる熱の量が不足する
↓
結果体の芯まで冷えて低体温症になる
地震の被害を逃れたにもかかわらず、
避難先で寒さと風で体熱が奪われた結果、体温が異常に低下して起こってしまったのです。
身近な生活の中で起きる低体温症
日常生活で、実際に偶発性低体温症がいちばん多く起こる事例としては、
お酒や睡眠薬を飲んだあと寒い場所で寝てしまったようなときです。
・睡眠薬や鎮静薬の多飲
・酒の多飲(急性アルコール中毒)
・飢餓・路上生活
・特殊な病気(脳血管障害など頭の病気・皮膚の病気・低血糖・中枢神経障害など)
比較的寒い場所にいなくても、糖尿病、循環器疾患などの基礎疾患がある人は体温調節機能が弱まっているため、
低体温症を発症するリスクがあります。
体の体温調節機能がまだ未熟なお子さんや、加齢とともに機能が衰えてしまったお年寄りの場合は、
さらにそのリスクは高まります。
低体温症の予防
低体温症にならないためにはもちろん「体を温める」こと。
そのリスクを理解し、事前の準備や心がけで発症を予防することができます。
充分な保湿
長時間寒い場所にいる場合は、衣類や毛布・手袋などで身体をくるみ体温が逃げないようにしましょう。
身体の自由が利かないことや、もともとの病気の状態、または認知力の低下などがある方は、適切に体温調節できないことがありますので、周囲の人が適切な環境を整えてあげることが必要です。
また、低体温症が重症化してしまうと、「寒い」と感じる感覚が鈍くなります。
こうした状態が見られる場合は、速やかに救急車を要請しましょう。
身体を濡れたままにしない
冬場のマラソンで特に多いのが汗などで体が濡れたまま寒い場所に長時間いることです。
レジャーやスポーツの際は、着替えやタオルなども充分に準備し、できればストーブなどで体と服を乾かすことが必要です。
冷気を避ける
雨や汗で身体が濡れたまま冷たい風に当たると、体温が奪われていきます。
また、夏場にゲリラ豪雨に遭遇した後に、冷房の効いた屋内に長くいると低体温症を起こす危険性があります。
夏場であっても保温が必要な状況と心得ておきましょう。
温かい食べ物と水分の補給
体の中からも温度を上げるための対策があります。
食事は身体の熱産生(熱を作るエネルギー)を促す効果があり、水分は脱水予防のためにも必要です。
カフェイン(コーヒー・緑茶など)やアルコールはかえって眠気や脱水症状を引き起こす原因になりますので控えましょう。
お酒や薬の服用は注意
お酒を飲むとすぐに体が温まるので、酔ったまま薄着で寝てしまうことがあります。
アルコールは一時的に体温を上昇させますが、血管を拡張し、より多くの熱を放散してしまいます。
酔って眠った状態で寒冷暴露されると低体温症を引き起こすことがあり、特に泥酔して屋外で眠ってしまうと非常に危険です。
また、睡眠薬や眠気をもたらす薬も同様です。
充分な保温をしないままうたた寝をしてしまうと、思わぬ体温の低下をきたしますので注意が必要です。
低体温症の原因は登山や駅伝だけ?高齢者に起きやすい理由まとめ
低体温症とは正式には「偶発性低体温症」といい、具体的には体温が35℃以下になる状態です。
それにより神経や筋肉、心臓など全身の正常な機能が阻害される状態を言います。
雪山の登山や水難などの事故・災害時だけでなく、高齢者や基礎疾患のある人、そして日常生活の中で、どんな年齢の方でも不注意で引き起こすリスクがあります。
自分の意識に関わらず、天候の変化などさまざまな要因が隠されていますので、いつでも体を冷やさない習慣を心掛けたいものですね。
こちらの記事も合わせてお読みいただくとお役に立ちます!↓
コメントを残す